活動報告

情勢学習

朝中関係の進展から見る朝鮮半島情勢 ―中米覇権争いと朝鮮ー

朝鮮に接近する中国

2018年以降、首脳レベルで打ち出されてきた朝中関係強化が
経済面で鮮明に表れはじめている。

中国が国連制裁決議2375号(2017年9月11日)を厳格に遵守する方針を示したことを背景に
両国間の貿易は、ここ1年の間、大幅な減少を記録した。

しかし、ここに来て中国の態度に変化が見え始めている。

東アジア貿易研究会が発行する「東アジア経済情報」によると
今年1-6月の朝鮮と中国の貿易額は、12億5312万ドルで前年同期比15.7%増加した。

制裁の影響を受けない観光事業においてこの傾向は、
さらに顕著で平壌だけでも中国人観光客が15万人にのぼるとまで言われている。

特に、中国の習近平主席の肝いりの国家重要戦略である
「一帯一路構想」の朝鮮に対するアプローチの変化は
世界に衝撃を与えた。

一帯一路構想とは
「陸のシルクロード経済ベルト」と「21世紀海洋シルクロード」によりアジアから欧州までを鉄道、道路、航路によって連結させる「シルクロード経済圏構想」と表現される。
2013年から一帯一路構想を提唱していた習近平主席は、2014年11月に開催されたアジア太平洋経済協力首脳会議でこれを大々的に発表しただけでなく、2017年10月中国共産党第十九回全国代表大会で、党規約に「一帯一路」を盛り込んでもいる。

中国は今日まで朝鮮をこの構想から除外してきたのであるが、
一転、政府の公式表明を持って朝鮮半島にまで一帯一路構想を拡張するとしたのである。

アジアと欧州を繋ぐ高速鉄道と高速道路は、
すでに朝鮮の新義州と隣接する中国の丹東にまで連結されている。

いつでも朝鮮国内を縦断することが出来る状態になっており、
ソウル、平壌、新義州、丹東を結ぶ
3国接続高速鉄道・道路の開通が現実的なものとなっている。

中国「一帯一路」の進展と激化する中米覇権争い

 

 

中国による現在の対朝鮮戦略は、2017年までとは大きく異なっている。その変容の理由に朝鮮半島情勢を見据えるカギがある。

 

一帯一路は、事実上、米国主導の世界秩序に対抗する中国主導の世界秩序の構築である。殊更、その印象を強めているのがインターネット・インフラの構築によるデジタル・シルクロード構想であろう。

 

中国による一帯一路は、「陸と海のシルクロード」だけにとどまらない。中国主導の通信ネットワークを広げる「デジタル・シルクロード」も戦略として含んでいる。一帯一路の沿線国に対して、中国主導の次世代通信ネットワークを構築し、電子商取引などのネット・サービスで中国主導のデジタル化経済を確立することを目指すというものだ。このデジタル・シルクロード構想の成功が中国の国際秩序形成能力を強化し、米国との覇権争いの帰趨を決定づけると言われている。

 

そこで重要な役割を担うとされているのが超高速・超大容量の次世代通信規格「5G」だ。5G技術で世界においてトップを走るのが中国の通信機器大手ファーウェイだ。自国の通信規格を普及させ主導権を握ることは、意図せずとも対象地域に諜報活動網を確立することを可能にする。米国にとってこれは、経済的利益もさることながら世界覇権という安全保障上の問題をも惹起する。中国が新たな通信規格を普及させることは、米国にとって最も大きな脅威なのだ。

 

昨今、世界を震撼させる中米貿易摩擦も単なる経済対立ではなく、本質において世界の覇権を巡る対立なのであり、そうであるがゆえにこれほどまでに激化し長期化しているのである。

 

情勢進展のためのオプションを広げる朝鮮

 

 

このような両大国の覇権争いによって地政学的価値を高めているのが朝鮮ではなかろうか。今年に入り中国は、しきりに朝鮮に対する国連制裁の解除を検討するべきだということを主張している。2018年以降、朝鮮が米国と接近するたびに中国の対朝鮮アプローチは柔軟になり距離を詰めることができるものへと変容している。

 

朝米関係が改善され制裁が解除されれば、一帯一路構想を朝鮮と連結させたい思いが強くあるはずだ。その先に位置する南朝鮮の「韓」半島新経済地図構想とも連結される。それにより、東アジアの要衝地である朝鮮半島をもって中国の覇権を強化できる。他方、朝米関係が急激に進展し、中国が蚊帳の外に置かれ、米国に南のみならず北までをも含む朝鮮半島全体の覇権を握られるような状況を強く警戒もしている。そのような思惑が、今の中国の対朝鮮アプローチからは見えてくる。

 

朝鮮の国家核武力の完成により朝米関係は、臨界点を超えた。米国は、既存の政策を対話路線へと変更する必要性に迫られた。朝鮮への米国の接近とともに、結果として中国も朝鮮との関係を今まで以上に強化せざるを得ない状況に置かれている。

 

2019年新年の辞の中で金正恩国務委員長は、米国の態度が変わらないのであれば朝鮮半島の平和と安定を実現するために新たな道を模索するとしていたのであるが、年末の朝鮮労働党中央委員会第7期第5次全員会議の場における金正恩委員長の報告の中で、その「新たな道」が「正面突破戦」であることが明らかにされた。「正面突破戦」の基本内容はあくまでも経済建設である。

 

しかし、それを担保する重要な手段として今回、報告の中で積極的な政治外交についての言及がある。それは、再度、核と長距離ロケットの発射実験を再開するとも考えられるが、現在の東アジア情勢を俯瞰すると、中ロとの関係強化という可能性もその解釈の中に含めることができそうである。

 

朝鮮は、国家核武力の完成により米国の朝鮮に対する態度を変容させ、対中関係の強化によって朝鮮に対する具体的な政策の変容を生み出すのかもしれない。しかし、重要なことは、朝鮮が本質において大国に依拠して状況を打開しようとするのではなく、自国の力を不断に強化しているということだ。

 

2018年からの情勢変化の転機は、朝鮮が国力を大国の想像を超越する水準で強化したことによって引き起こされたものであり、朝鮮はこれからも国力を不断に強化することによって東アジア情勢の主導権を握っていくことであろう。国力を強化していく方策のみが大国との関係で、自国の利益を守り大国との関係を絶え間なく進展させることになるということが証明されつつある。

 

 

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