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【投稿】まったく正反対の報道

「まったく正反対の報道」

 朝鮮民主主義人民共和国(以下朝鮮)の人工衛星打ち上げ準備をめぐって日々報道が過熱していますが、米国のブレア国家情報長官は10日、米上院軍事委員会の公聴会でこの問題について重要な発言をしました。

 しかしこの重要発言についての報道が、日本とその他の国ではまったく正反対の内容でなされています。

 論より証拠。まずは、報道内容を比べて見ましょう。ひとつは日本での報道、もうひとつは南での報道です。

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-日本(東京新聞=共同通信、産経新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2009031001001064.html
http://sankei.jp.msn.com/world/america/090311/amr0903110058003-n1.htm

「ミサイル発射を意図と分析 北朝鮮で米国家情報長官」

【ワシントン10日共同】ブレア米国家情報長官は10日の上院軍事委員会の公聴会で、北朝鮮が「人工衛星」としている長距離弾道ミサイルについて「発射を意図していると思われる」と証言した。発射時期の見通しは示さなかった。北朝鮮が実際に弾道ミサイルを発射する可能性があるとオバマ政権高官が公の場で明確に認めたのは初めて。
 以下略

-南(聯合ニュース)
http://japanese.yonhapnews.co.kr/northkorea/2009/03/11/0300000000AJP20090311000400882.HTML

米国家情報長官「北が発射しようとするのは人工衛星」

【ワシントン10日聯合ニュース】ブレア米国家情報長官が、北朝鮮が発射しようとしているのは人工衛星だとみられるとの考えを示した。10日の上院軍事委員会公聴会に出席したブレア長官は「北朝鮮は人工衛星を打ち上げると発表し、わたしは彼らが意図するものが人工衛星の打ち上げだと信じている。誤っている可能性もあるかもしれないが、それがわたしの判断」だと述べた。
 米政府内で、北朝鮮が発射準備を進めている運搬体が人工衛星だとする判断を公に示したのは事実上、ブレア長官が初めて。
 以下略

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 ご覧の通り同じ事実を、日本では「ミサイル発射を意図」、南では「発射するのは人工衛星」とまったく正反対に伝えています。

 さて、どちらがブレア長官の発言を正しく報道しているのでしょうか?
 ブレア国家情報長官の発言が注目されるのは、彼がCIAなど米国の十数の情報機関を統括する地位にある政府高官であり、上院の公聴会での公式発言であることから米国の公式見解に準ずると考えられるからです。

 記事の本文を読まれた方にとっては一目瞭然ですが、ブレア米国家情報長官の発言を正しく報道しているのは南の聯合通信でしょう。

 ブレア長官は、その発言の中で「ミサイル発射を意図している」などとは一言も発言していません。
これはフランスAFP通信などの他国の通信社の記事からも確認できます。

 実は聯合通信は、上記記事配信後、タイトルを「北が発射しようとするのは宇宙発射体」と変更した記事を新しく掲載しており、そこでブレア長官の発言を英語の表現を引用しながら、より正確に報道しています。
http://japanese.yonhapnews.co.kr/northkorea/2009/03/11/0300000000AJP20090311001300882.HTML

 彼は公聴会で「北朝鮮が発射しようとしているのは宇宙発射体(space-launch vehicle)」だと答えました。つまり、軍事兵器であるミサイルではなく、「宇宙発射体」=「人工衛星を搭載して宇宙空間に発射されるもの」との認識を示したのです。

 ちなみに、日本では長距離ミサイル「テポドン」の発射実験だったというのが通説になっている98年8月の「光明星1号」発射についても、米国は「人工衛星の発射であった」と公式に発表しています。

 この問題について、これまで日本のマスコミは「北は人工衛星といっているがそれはウソで、実はミサイル発射実験である」という論調をとっていました。しかし、ブレア長官、つまり米国は「ミサイルの発射」ではないと公式に認めてしまったのです。

 そこで日本のマスコミが採った行動は二つでした。
 ひとつは、この報道自体を無視するということ。
 新聞やテレビでこの報道を眼にした方はあまり多くないはずです。実際、新聞では「産経新聞」、「東京新聞」以外はこのことをほとんど報道していませんし、テレビでも同じような状況でしょう。
 そしてもうひとつが、彼の発言のうち、「発射を意図している」という部分だけをとりあげ、「宇宙発射体=人工衛星の打ち上げと判断する」という発言を意図的に無視し、いかにも米国が「弾道ミサイル」と判断したかのように見えるように報道をすることでした。確信犯的な歪曲報道と言えます。

 このような中、朝鮮は3/12に「宇宙条約」など国際条約への加盟及びその他の国際機関へ人工衛星の打ち上げを事前通報し、その準備を着々と進めています。国際社会は朝鮮の平和的宇宙開発を公認しています。
 しかしこの期に及んでも、日本のマスコミは自らの歪曲報道を反省することなく、「衛星発射もミサイル発射も同じである」との論調で危機感と反朝鮮感情を煽るのに躍起になっており、実際の衛星打ち上げ後もそれは続くでしょう。

 これが、不偏不党、公正中立を掲げる日本のマスコミの、朝鮮に関する報道での現実です。本物を見分ける眼を養うのは大変です。

朴泰進 国際問題アナリスト [2009.3.13]

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