岐阜・東濃 先代の思いを受け継ぐ同胞青年たち
同胞社会に活気を取り戻そう
8年ぶりの同胞行事を祝う踊りの輪が広がった(9月
18日) |
岐阜県土岐市にある総連東濃支部会館前の公園では、野遊会(9月18日)を楽しむ同胞たちの会話が弾んでいた。
日本各地で見られる光景だが、ここでは事情が異なる。同地域で8年ぶりに開催された同胞行事だったからだ。7月に「ウリ民族フォーラム」を開催した岐阜県青商会のメンバーを中心とする地域の同胞青年たちが、活気がなくなった地域同胞社会をもう一度盛り上げようと立ち上がり、同胞行事を準備した。
東濃地域でも解放後、在日朝鮮人運動が始まった。1世たちが時間と労力、お金を出し合って同胞社会を築いた。熱い気持ちを持った同胞や商工人を中心にした第2世代は、1世同胞の気持ちを受け継ぎ、東濃地域の宝である学校や支部会館を守ってきた。
しかし、少しずつ同胞たちは祖国や組織を遠ざけるようになり、地域で同胞の活気や子どもたちの歓声が聞こえなくなった。同胞行事もいつしか行われなくなった。東濃朝鮮初中級学校の休校(1998年)、拉致問題、経済不況、少子化…。同胞同士のつながりも弱まった。支部に専従活動家がいなくなってからは、支部委員長を選出することができなくなり、今に至っている。
郭龍浩さん(78)は、1999年まで約10年間、総連支部非専従委員長として活動した。郭さんは、「地域同胞社会を守っていくためのバトンをわれわれが次代にしっかりと渡せなかったために、祖国と組織への自信を持てなくなった世代の同胞たちがいる。だから、このような同胞行事もひんぱんにできなかった」と話し、悔しそうな表情を浮かべた。
解放後、空襲を逃れるため京都から岐阜へ移り、同胞社会の活性化に青春を投じてきた郭さん。70~80年代、岐阜県で大きな同胞行事があれば、東濃地域の同胞たちはみんなでバスを借りて出かけたという。それほど同胞が多く、地域社会にも活気があった。その時の光景を、青商会をはじめとする青年たちが活動する現在の光景と照らし合わせていた。当時のようにバスを借りて同胞行事に出かける日が近いうちに再来するかもしれないと。
準備委員会のメンバーを紹介する本部委員長(右か
ら2番目)。左から鄭昇容、崔余鎬、蔡鐘浩さん |
「われわれができなかったことを実行している。頼もしいかぎりだ」
郭さんや地域同胞のこのような期待は現在、野遊会の準備に奔走した東濃地域の若者に向けられている。
朝青岐阜・東濃支部の非専従委員長を務めている鄭昇容さん(29)は、「東濃地域の大きな同胞行事に参加した記憶がない」という。当時朝鮮大学校に通っていたためか、同地域の直近の同胞行事である8年前の花見にも参加していない。だが今回、「同胞が集まる場を先輩たちと力を合わせて作っていきたい」との思いから、青商会世代の先輩たちと共に野遊会の準備に携わった。
地域の未来を担う一人として青商会世代の期待も背負う鄭さん。実は、郭龍浩さんの孫だ。
フォーラム後のギフト
女性同盟東濃支部委員長の柳敬子さん(66、非専従、日本学校出身)には、次世代に引き継ぎたいものがある。
「祖国や組織があるおかげで、異国で暮らしながらも朝鮮人として堂々と生きてこられた。そうした環境を次世代に残してあげたい」
同胞たちが共に愛校活動に精を出していた時代は過ぎ去り、柳さんには時に、「女性同盟の活動をまだやっているの?」「時代遅れ」などという厳しい声が飛ぶこともあった。それでも有志らと共に20年近く、週1回のチャンゴサークルを地道に運営してきた。
許宗萬責任副議長の激励を受ける東濃の同胞たち
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そんな母の姿を見てきた息子の蔡鐘浩さん(40)は、今回の野遊会で司会を務めた。
「東濃地域の同胞社会が昔のように強い絆で結ばれたら…。そのために私たちの世代が先頭に立っていかなければ」
野遊会が終わる頃、蔡さんが同胞の前でこう宣言した。柳さんだけではなく、野遊会に参加した1、2世の気概がしっかりと受け継がれていることが確認された瞬間でもあった。会場は万雷の拍手に包まれた。
若手ながら岐阜県青商会で重要な役割を果たしている崔余鎬さん(31)も、朝青委員長の鄭さん、司会者の蔡さんと共に野遊会の準備に尽力してきた。
「野遊会を機に同胞社会の代を継いでいく基盤ができたと感じる。まだまだこれからだが、東濃同胞社会をなくさないためにも、総連支部の活性化をはじめとする活動をがんばっていきたい」
崔さんの力強い姿は、活気ある東濃地域同胞社会を築く若手の決意を象徴しているようだ。そして彼の弟もまた、朝青東濃支部で非専従総務部長を務める期待の若手の一人だ。
7月に岐阜で行われた「ウリ民族フォーラム」のテーマは「立ち上がろうトンポ社会、元気にするギフト!」だった。岐阜県青商会のメンバーはフォーラムを通じ、「同胞社会を元気にするギフト」が自分たち自身であることに気づいた。
東濃地域には今、同胞社会を活性化させたいと願う青年たちがいる。その若いメンバーの中には、総連や女性同盟の活動を今日まで支えてきた同胞の親せきも多い。そして、蔡さん、崔さん、鄭さんはみな、東濃初中出身だ。
東濃の同胞社会と学校で育った若者たちが、祖父母や親の世代が守ってきた民族の心を受け継ごうと懸命にがんばっている。岐阜フォーラムが生んだ同胞社会を元気にする「ギフト」。ギフトがさらなるギフトを呼び込んでいる。